EADE is DEAD

冥銭持たずに門前払い

ドジッ娘調教タイム自動計測システム栗東アリスの将来

日本中央競馬会(以下JRA栗東トレーニングセンター坂路コースで稼働する調教タイム自動計測システム(ALIS)―通称 栗東アリス―。登坂する馬の背に位置するバーコードを読み取り、タイムを計測するのが彼女の役目。昨年は総計241,133本を計測する大活躍!しかしその一方で1Fでも計測不能となったものが16,274本、率にして全体の6.75%と、計測システムとしてはかなりのドジッ娘と評判だ。それを知っている乗り役が尻を突き出してみたり、馬が必要以上にバーコードを跳ね上げたりしてからかっているとかいないとか。色んな意味で愛されている、それが我らの栗東アリスなのだ。

現在市販されている調教タイム自動計測システムには磁気信号と無線を用いて視覚に頼らないタイプもある。同時に心拍データを計測する事もできるらしく、アリスに比べると随分とあか抜けている。バーコードを必死に目で追って、ぽんこつ声優的奇声を発しながら記録しているアリスの姿を想像すると萌え死ぬけれど、時が流れ技術の進歩した今日、もう少し、もう少しだけしっかりしてくれれば!と思うのである。

この様な状況にあって、主人たるJRAもアリスの成長を願わずにはいられない。アリスをより"できる娘"にする為に、平成17年事業年度収支予算書において、

競馬会は、調教タイム自動計測システム(ALIS)更新開発のため、42,275千円を限度として、平成17年度以降2ヵ年にわたり支払うための契約を結ぶことができる。

平成17年事業年度収支予算書 予算総則 第6条の7 - 日本中央競馬会 (PDF)

という文言を盛り込んだ。この年のシステム開発関係の予算として同第6条に記されているのは以下の通り。

IP電話対応ARSシステム                    539,911,000円
次期電話投票会員管理(CIF)システム      647,410,000円
次期テレホンサービスシステム             155,813,000円
次期外部情報提供システム                 120,785,000円
IPAT情報サブシステム機能追加             461,401,000円
調教タイム自動計測システム(ALIS)更新    42,275,000円
競走馬情報管理システム(JARIS)端末PC化  839,460,000円

※何れも上記の金額を限度として平成17年度以降2ヵ年にわたり支払うための契約を結ぶことができる

他のシステムに比べアリス更新開発の42,275,000円は桁が一つ少ない。投票に関わらない限定的なシステムなのでこんなものだろうか、と門外漢は思うけれど、やっぱり少ない気もする。参考までに前述の磁気信号と無線を用いたシステムの販売元である株式会社ノーバリースに価格を尋ねてみたところ、仮に直線で4ハロン、 2頭併せ、幅員10mでシステム構築するとした場合、税抜きの製品価格で20,000,000円ぐらいからとの事(あくまで概算)。高額商品故に導入実績はまだないらしいけれど、この金額を聞くと今現在タイム計測システムを導入している民間の育成牧場はどの様なものをどれぐらいの費用を掛けて導入したのか気になって仕方がない。

それはさておき、JRAがアリスをどの様に成長させるかは近い将来分かる(のかな)として、門外漢なりに妄想を少々。成長したアリスは現在のアリスのドジッ娘たる所以である視覚による個体識別を行わないであろう事は想像に難くない。費用的においそれと更新できるものではないので、新しい技術と高い精度で向こう十数年使えそうなものを、と考えると、時流的にICタグを用いたRFID(Radio Frequency IDentification)辺りになるだろうか。身近な所ではSuica等も同様の技術。坂路でのタイム計測に求められる要件としては、

  • 時速約65km(1F約11.0秒)程度での検知
  • 同時に多頭数を識別
  • ICタグとリーダー間の通信距離の長さ
  • ICタグのコストを抑える

といった辺りが考えられる。

ICタグを用いたタイム計測は駅伝・マラソンの分野で既に実用化されており、2007年2月18日に行われた3万人規模の第1回東京マラソンにおいてもタイムの計測・管理で活躍したとされる。使用された株式会社ランナーズ(ローム社、マイクロトークシステムズ社との3社共同開発)の製品は時速60kmまでの検知を可能としている事から時速65kmも何とかなりそうな雰囲気ではあり、あの恐ろしい程の密集度からすれば同時多数の認識も可能だろう。人間を対象とした製品なのでICタグとリーダーの通信距離が1.5?1.8mまでと些か短いが、2006年1月の電波法改正により通信距離が数m(状況、製品によりまちまち)と言われるUHF帯(952?954MHz)が解放された事でこれも何とかなりそうではある。ちなみにUHF帯で高出力のリーダー/ライターを利用するには1台毎に免許と電波利用料が必要になるらしいけれども、免許申請の手続きも2006年1月より簡略化され約2週間程度(3,550円)で完了し、電波利用料は600円/年と案外リーズナブル。また、ICタグのコスト削減は界隈の課題でもあり、UHF帯で利用可能なICタグとしては日立製作所のμ-Chip Hibikiが月産1億個時の単価5円と、非常に魅力的な製品も登場している。

以上の様にそれっぽい所をあれこれ摘み食いしてみるとアリスにも応用できそうな気がするけれど、あくまで素人の妄想の域を出ないので実現可能かは分からない。分からないけれども、候補の一つに挙がっても良い技術だとは思う。まあどの様なシステムになるにせよ、栗東アリスからドジッ娘属性が失われる可能性は高い。坂路党としてはしっかりと計測される事が嬉しくもあり、数年とはいえ親しんできたドジッ娘アリスのチラリズムとの別れが寂しくもある。今しばらく時間はあると思うので、日々繰り返される計測不能を楽しもう。そしてディープインパクトを過去の馬と認識する世代が現れたら伝えよう。あの頃アリスはドジだった、と。(えー

参考資料